BAKERU」 プロジェクト

BAKERUの学校ー2019年秋・山形 酒田市立琢成小学校篇

─リサーチ・地元のBAKERUを知る。

「世界のBAKERUに出会う」ではロサンゼルスにおもむき、オグララ・ラコタ族とふれたBAKERU。
世界にさまざまなBAKERUが息づいているように、わたしたちの暮らしている日本各地にも、じつに多彩なBAKERUが息づいています。

2019年の秋、「BAKERUの学校」の舞台は山形県酒田市へ。
最初に、地元に息づく伝統芸能を知ることから、BAKERUの学校がはじまりました。子どもたちに伝わる地元の芸能の理解、そして、新しいBAKERUコンテンツとして発展させるためのリサーチとして伺った「新町稲荷獅子舞」は、150年以上の歴史を持っているそうです。

豊作を願い、米や扇・錦を「噛む」動作で舞い踊る獅子は、地元の大きな松から作られた面をかぶり、大きく響かせる太鼓の音に合わせ壮大に演じられます。迫力のある動きにたゆたう衣装には、紋とたてがみの文様があしらわれ、統一された色彩のトーンと、ゆったりとした大きな舞いに、神々しさが感じられました。そもそも「祭り」は、ただの行事としての決まりきったものでは決してなく、「通過儀礼」としての一面をもっていたと考えられています。それは、「祭り」を通過することで、その人が、何かに「なっていく」ための舞台装置。

考え、動き、聞き。感じ、調べ、声をそろえ、調子を合わせることで、何かに「なっていく」きっかけ。そのために、それぞれの土地土地に設置された舞台装置として、祭りは地元のつながりの中にとけこんで行きました。

「BAKERUの学校」では、そんな「地元のBAKERU」とインスタレーション作品とのセッションを通して、子どもたちと、いままで継がれてきたものを再発見し、いま、これからを生きていくことはどのようなことか、を再認識していきます。

─1時間目・酒田のBAKERUを伝える。

リサーチや制作を経て、いよいよ琢成小学校の子どもたちとの「BAKERUの学校」が行われました。
まず1時間目は、継がれてきた物語を、体験として伝える授業をしました。
地元の芸能である新町稲荷獅子舞のみなさんと、東京鹿踊のみなさんの演技を間近で体験してもらい、そして、実際に触れてもらいました。

多くの子どもたちは、地元の獅子舞を見たことはありましたが、実際にお面重さや素材、衣装の手触りを感じてみたり、中に入ってそこから見える景色を実感したことは初めてで、動きや質感を直近で見て、さわり、聞き、感じる驚きを体験しました。

そして何より、おなじ「豊かさを願う」ために踊る獅子舞と鹿踊の違いを通して、改めてその世界の奥深さを発見しているようでした。

─2時間目・「神様」を自分なりに表現するワークショップ。

2時間目のワークショップでは「◯◯の神様」、「なにかをかなえる神様」を色で表現します。

BAKERUのお面は特別なシステムをもっていて、このお面を身につけてデジタルスクリーンに向かうと、自分の姿が、別の神様に姿を変えて、つまりバケて、立ちあらわれます。

そのお面に、自分で考え、想像した力をもつ「神様」を描くということ。伝統芸能であつかう道具は、素材の採取のしかたや加工の仕方、作り方にも、それぞれの土地でつながれてきた意味を持った作法があると言います。衣装や模様にもそうした意味は託され、良いものをつなぎとめるための縫製技法だったり、意味のある動きに必要な装飾がさまざまに考え出され、受け継がれてきました。

このワークショップでは、そうした伝統をあらためて認識することと同時に、プログラミング技術の舞台裏についても学びます。日頃から、さまざまなアバターを使いこなし、センサーなどのテクノロジーにふれているこども達の親和性は高く、伝統と現在のテクノロジーの両方を、実際に手を動かすことを通して実感しているようでした。

─3時間目・地元から生まれたBAKERUを体験する。

緊張と笑顔が入りまじってならんだこども達が、自分が描いた神様のお面をかぶりながら、いよいよBAKERUのインスタレーションに挑みます。
今回のBAKERUの学校では、特別に新町稲荷獅子舞をベースとした「獅子舞のBAKERU」コンテンツが新しく追加され、「地元のBAKERU」をより感じてもらえるように、作られています。

獅子舞のBAKERUは、「噛む」動作を通じて大地に豊穣をもたらし、こどもたちの動きにあわせて酒田の土地のあたらしい芽生えを示唆します。デジタルスクリーンにあらわれた自分たちのアバターに没入していくこどもたち。大きく身体全体を使って動いたり、小さな細かい表現で動きを見つけていったり、友達と連携した動きを考え出したり。ひとつひとつの動きを試していきながら、デジタルスクリーンに移った神様にその動きを投影していきます。
自分オリジナルのうごきを見つけ、だれかの面白いうごきをまね、それがしだいに広がっていく。あっという間にそうした流れができてくると、原始の踊りや舞いは、こうやってできあがっていったのではないだろうか。と感じさせられるほどでした。 多くの祭りの世界で重要とされる部分は「ほんとうに神様がいるかどうか?」の追求ではなく、自分たちが、「神様や、神様を感じている存在を演じていると認識すること。」であると言います。神様を感じてはたらきかけながら、そうしている自分自身に、いろいろな考えや問いを投げかける。仮装や仮面の効用は、それらを通して、世界を変える可能性の力があるんだ、と知ることができることにあるのかもしれません。今回の「BAKERUの学校」は、新型コロナウィルスが蔓延する以前の2019年に行われたものです。
その後の2年でさまざまな状況が本当に様変わりし、こどもたちが「体験」を通していままで知らなかった世界に触れる機会が、ぐっと減ってしまっている状況が続いています。

こういった状況の中、伝統芸能とデジタルアートが、どのような価値を媒介しながら子どもたちの「体験」を支えることができるのか?「BAKERUの学校」は新型コロナウィルスの感染症対策を徹底し、現在も全国の小学校で授業を続けながら試行錯誤をしています。

 

─「BAKERUの学校」について─
文化庁「文化芸術による子供の育成事業〜巡回公演事業〜」に新設されたメディア芸術の枠で採択されたプロジェクトです。同事業は、全国の小中学校の子どもたちに対し、文化芸術を体験する機会を提供するもので、将来の芸術家や観客層を育成し、優れた文化芸術の創造に資することを目的としています。詳しくはこちらをご覧ください。