BAKERU」 プロジェクト

BAKERUの学校ー2020年冬・岐阜 山之村小学校篇

─いま、考えられる地元でのBAKERU

芸能とデジタルアート、それぞれを通しながら受け継がれてきたことや、これから繋げていくものを再発見、再認識するために2019年からスタートした「BAKERUの学校」。

2020年は世界的な混乱の中、BAKERUとしてのワークショップやインスタレーションの開催が望めないばかりか、厄災を払うために行ったり平静を祈願するために開催される郷土芸能そのものも、多くの活動の場をなくしました。
そして本来、身体や心をおおいに動かし、さまざまな物や体験に触れることで多くを吸収しながら育っていく子供達もまた、その機会を大幅に制限されてしまい、その状況は依然続いています。

こうした状況下で、それでも少しずつ、「BAKERUの学校」で行えることは何か?
いま、考えられるアクションを、少しずつ行っていきます。

 

 

─飛騨の小さな学校

2020年12月、足踏みしてしまった社会と対照に季節は移りかわり、山脈に抱かれた飛騨の山あいにも、本格的な冬の直前の、まぶしく豊かな秋が訪れていました。美しい自然だけが、変わらずに子供達を包みます。

そんな素晴らしいロケーションのなか、全校生徒12名が学ぶ飛驒市立山之村小学校で「BAKERUの学校」が開催されました。

 

 

「BAKERUの学校を通して、地元の芸能に新しい形で触れてもらい、再発見してもらう。」

この状況下であらためて、デジタルアート作品「BAKERU」に込められた想いを、学校、子供達と一体となって作り上げます。今回は、ワークショップ関係者の事前の検温、マスク・フェイスガードの着用とこまめな消毒、換気の徹底などの感染症対策に沿って授業が行われました。

祭りを開催することができず、目にする機会が減ってしまった地元の獅子舞「森茂獅子」その衣装に描かれた大きな「たてがみ」の模様は美しく、自然のなかで流れる、生命の力強さを感じさせます。そういった継がれてきたものの再発見を行いながら、12人の子供達が、「BAKERU」のお面へ思い思いに「神様」を表現していきます。

近年、効率やスピードが最重要視されるような社会の中で、唯一その流れに反して着目されていったのは、「なにかを実際に体験する」という価値であったと感じます。しかし、パンデミックはその体験をも奪っていきます。
子供達は、そのような中でもそれぞれの心の中にある、願いをかなえてくれる「神様」を想像してお面に描き、「BAKERU」のデジタルスクリーンに向かって演じていきました。

 

─「BAKERUの学校」は続く

山之村小学校の体育館には、写真家・木下好枝さんの作品が飾られてありました。
飛騨にひろがる山と自然、気候と風土での人々の暮らし。地元の風習や行事、豪雪のなか力強く生きる人々の生活を写真として、村人達の生活と寄り添いながら残し続けた写真家・木下好枝さんの感性は、飛騨の暮らしの中に息づいていると感じられます。そこに残る、子供達と獅子舞の、躍動的な原風景。当時と暮らしや社会は大きく変わりましたが、そこに写された人々の感情は、今も昔も根っこの部分では変わりません。

 

木下さんは、このような言葉を残しています。

「いま、私たちは豊かさという錯覚の中で、自分を忘れ、生きる知恵をも忘れようとしているような気がします。過去を懐かしむのではなく、現在を見つめるために過去を見つめ直すことも、また大切なのではないかと思っております。」
 ※1

 

この世界的な情勢に関しましては、まだまだ予断を許しません。伝統芸能とデジタルアートを通して、日本中の子供達に、伝えられてきたものと新しいものを再発見してもらう「BAKERUの学校」。伝統芸能やデジタルアートができることは何か? 可能性を模索しながら、2022年の春も「BAKERUの学校」は全国をめぐる旅に出ます。

 

※1「飛驒民俗村特別展開催に際して」木下好枝 より抜粋
※このワークショップ・撮影は、各ガイドラインに基づく新型コロナウィルス感染症対策を行い、生徒と関係者の感染は確認されませんでした。

 

─「BAKERUの学校」について─
文化庁「文化芸術による子供の育成事業〜巡回公演事業〜」に新設されたメディア芸術の枠で採択されたプロジェクトです。同事業は、全国の小中学校の子どもたちに対し、文化芸術を体験する機会を提供するもので、将来の芸術家や観客層を育成し、優れた文化芸術の創造に資することを目的としています。詳しくはこちらをご覧ください。