BAKERU」 プロジェクト

BAKERUの学校 —2023秋・宮城 築館小学校篇—

世界的な大混乱から抜け出し、新しい技術やルールが日々更新されながらも、人々の日常が戻った2023年。イベントやワークショップなど人が集う場の制限も緩和され、郷土芸能に触れる機会も多く目にすることがあったかと思います。今年度は全国10校の小学校で「BAKERUの学校」を公演することが出来ました。その中でも、私たちWOWが生まれた地元・宮城での「BAKERUの学校」をご紹介します。

─フィールドリサーチ南部神楽「鶏舞」

その土地に息づく郷土芸能を知ることからBAKERUの学校は始まります。巡回公演を行う小学校は、宮城県北部に位置する栗原市立築館小学校。リサーチを進めていく中で、岩手県南部から宮城県北部に継承されている南部神楽に出会いました。

南部神楽は、秋の豊作祈願・感謝として神社のお祭りなどで舞う郷土芸能であり、祭礼で最初に奉納される「式舞」と、神話や地域の伝説を題材に舞う「劇舞」の演目があります。今回は南部神楽のうち、その始まりの城生野神楽で舞われる式舞の「鶏舞(とりまい)」にフォーカスし、新しいBAKERUコンテンツを制作しました。

撮影協力:金蛇水神社

激しく回転する動きを特徴とする「鶏舞」は、天の岩戸を開く時に鳴いた「常世の長鳴鶏(とこよのながなきどり)」を表現したものと言われています。衣装の長い鉢巻は鶏の尻尾を表し、鳥兜の左右に描かれている紅白の玉は、日月(太陽と月)を意味しています。「鶏舞」の要素一つひとつを汲み取り、WOWならではの解釈と表現を試行錯誤しながら、新コンテンツ「鶏舞」のBAKERUが始まりました。

 

 

─郷土芸能を学ぶ

春からのフィールドワークや制作を経て、暑さが残る9月中旬に築館小学校2年生・3年生との「BAKERUの学校」が行われました。まず、今の小学校の授業では当たり前のように使用されているタブレットやPCで、最新技術をもとに生み出す「デジタルアートとは何か?」を伝えた後、南部神楽「鶏舞」の実演をしました。

スピード感のある太鼓のリズムに手平鐘(てびらがね)の高音が体育館に響き渡り、踊り子たちは長鳴鶏の鳴き声を上げるような動きや、跳ね・飛び・回転を激しく繰り返します。多くの子どもたちは、地域の祭事で見たことがあるようでしたが、衣装・採り物・囃子(はやし)に触れるのは初めてで、興味津々な様子で楽しんでいました。所作や身につけるものなど郷土芸能の根本に接する時間は、地元に息づく伝統を知る一番のきっかけになったようでした。

 

—宮城のBAKERUを体験する

授業は一旦体育館から教室に移り、神様に化けるためのお面を作ります。お面に願いを込めながら、さまざまな色のマジックや折り紙で彩ります。個性溢れるカラフルなお面が準備できたら、いよいよBAKERUのインスタレーション体験の始まりです。

新コンテンツ「鶏舞」のBAKERUは、洞窟エリアと天空エリア2つのステージで構成されています。暗闇の洞窟では長鳴鶏に扮するアバターになり、頭の上で大きく拍手します。すると天井に穴が開き、光が差し込みます。長鳴鶏が天照大神を呼ぶ神話を元に、体験者の拍手によって太陽を呼び起こす動作を入れ込みました。大きな穴から太陽光が差し込むと、ステージが上昇し天空エリアへ進みます。ここでは太陽が現れたことに対して喜びを表現するため、大きく羽(=腕)をパタパタと振る動作を入れ込みました。アバターが飛ぶことによって「鶏舞」を表現しました。

他のBAKERUコンテンツと異なる点は、チームプレー要素が加わった点です。拍手を止めると、どんどん穴は塞がってしまいます。塞がらないようにするためには、友達同士で拍手を止めずに穴を開け続けるチームプレーが必要になります。また天井エリアでは、アバターが落下しないように誰が一番浮遊することができるか腕を扇ぎ続けていたり、子どもたちは一つひとつの動作を楽しんでくれました。

 

 

 

—「これから」を考える

BAKERUは、デジタル技術の「進化」によって生まれたデジタルアート作品です。一方、郷土芸能は、「形を変えず」地元の方が大切に守ってきた文化です。そんな2つの組み合わせは、アンマッチのように感じるかもしれません。

しかし、郷土芸能や伝統工芸を継承するために、先人たちは時代の変化に対応し、技術を巧みに駆使しながら新しい表現を開拓してきました。その表現に込められた思想や文化には、受け継がれるべき理由が数多く存在します。

WOWは郷土芸能そのものを直接伝えることはできませんが、先人に倣い、WOWならではの表現を通じて、郷土芸能が持つ豊かな精神性と奥深さを広めるお手伝いが少しでもできればと考えています。

 

—「BAKERUの学校」について
文化庁「文化芸術による子供の育成事業〜巡回公演事業〜」のメディア芸術枠で採択されたプロジェクトです。同事業は、全国の小中学校の子どもたちに対し、文化芸術を体験する機会を提供するもので、将来の芸術家や観客層を育成し、優れた文化芸術の創造に資することを目的としています。詳しくはこちらをご覧ください。