2025
12/17
バケルの学校「ハラㇻキ」後編

平取アイヌ古式舞踊の伝承や思想を背景にした新コンテンツ「ハラㇻキ」は、北秋田市立義務教育学校 阿仁学園(秋田県)と平取町立二風谷小学校(北海道)でお披露目をしました。秋田県阿仁町の根子集落では郷土芸能「根⼦番楽」が伝承されており、刀を使った演舞などアイヌ古式舞踊と共通点があります。紐解いていくと、どちらの地域も狩猟文化が生活や風土に深く浸透していることがわかりました。こうした重なり合う背景を踏まえて、両校では「郷土芸能の交流」をテーマに「バケルの学校」を開催しました。
阿仁学園で新作「ハラㇻキ」を公開
7月上旬の夏めく日に、私たちは阿仁学園を訪れました。阿仁学園は小学校2校と中学校を統合して設立された学校で、1〜9年生の在校生が学年の垣根を越えて過ごしています。まずは、WOWが「デジタルアート」や「BAKERU」について紹介し、続いて平取アイヌ文化保存会の方がアイヌ古式舞踊を披露しました。弓矢を用いる舞「クリㇺセ」や、新コンテンツのテーマであるタンチョウが湿原で遊ぶ姿を表現した舞「ハラㇻキ」など、子どもたちは初めて目にする踊りに引き込まれるように見入っていました。

平取アイヌ文化保存会による演舞
続いて、子どもたちは学年混合のグループに分かれ、平取アイヌ文化保存会の方からアマツバメの舞「チャㇰピヤㇰ」の歌と所作を学び、最後はみんなで踊りました。笑顔で踊る姿は、平取アイヌ文化保存会の方が取材で語っていた「みんなで踊るのが楽しいから踊る」という言葉を想起させる光景でした。

「チャㇰピヤㇰ」を踊る様子
その後、デジタルアート作品「BAKERU」を体験するために必要なお面を制作。北秋田市の自然の恵みに感謝するお面や、アイヌ紋様を取り入れたお面など、一人ひとりの個性が光るお面が出来上がりました。

アイヌ紋様を描いたお面
オリジナルのお面を被り、いよいよ新コンテンツ「ハラㇻキ」の体験です。スクリーンにアイヌ文様をまとったタンチョウのアバターが現れると、「かわいい!」「さっきの踊りだ!」と歓声が上がりました。子どもたちは平取アイヌ文化保存会の方の動きに合わせて、両手を胸の前から外に広げる所作を真似し、スクリーンに映るタンチョウを呼び集めながら踊りを楽しんでいました。アイヌ古式舞踊に倣い、仲間と踊ることで生まれる喜びや心のつながりを軸にしたBAKERUの「ハラㇻキ」を平取アイヌ文化保存会の方々も体験。視覚から得られるデジタルならではの一体感を興味深く味わっていました。

新コンテンツ「ハラㇻキ」を体験する様子
デジタルアート作品「ハラㇻキ」をアイヌ文化が息づく二風谷小学校で披露
秋晴れが続く10月下旬に、次の巡回校・二風谷小学校へ向かいました。アイヌ語の学習やアイヌ文化の体験・調査活動など、地域に息づく伝統や歴史を理解し、考えを深めることで子どもたちの成長を育む学校です。学習活動には、平取町アイヌ文化係の方が講師やコーディネーターとして携わり、地域全体で子どもたちの学びを支えています。二風谷小学校では、北秋田市の根子番楽保存会による演舞を披露。アイヌ古式舞踊とは異なる装飾や舞に、子どもたちは目を輝かせながら鑑賞していました。小学4年生の演者による迫力ある演舞も披露され、同年代の子が舞う姿に強い刺激を受けていました。

根子番楽保存会による演舞
演舞を鑑賞した後、生徒・保護者・先生・根子番楽保存会の方々が一緒になってお面を制作。授業で学んだアイヌ文様や平取町の自然をモチーフにしたお面、両地域の文化伝承への願いを込めたお面など、それぞれの想いが詰まったお面が出来上がりました。

お面づくりの様子
デジタルアート作品「BAKERU」の体験では、まず地元・秋田にちなんだコンテンツ「なまはげ」からスタート。子どもたちは、なまはげの前に現れる雪玉をどうやって投げるか真剣に考えながら体験していました。根子番楽保存会の方々は、馴染み深い「なまはげ」がデジタルでユーモラスに表現されていることに新鮮さを感じていました。続いて新コンテンツ「ハラㇻキ」が登場すると、子どもたちから「アイヌのキャラクターだ!」「ハラㇻキだ!」とすぐに声があがりました。二風谷小学校でも、世代を超えて踊りを楽しむ温かな場が自然と生まれていました。

新コンテンツ「ハラㇻキ」を体験する子どもたち
異なる土地の文化が響き合い、自らのルーツに向き合う
今回開催した2校では「郷土芸能の交流」をテーマに、北海道平取町の「平取アイヌ文化保存会」と秋田県北秋田市の「根子番楽保存会」の協力を得て、異なる土地の芸能が出会い、思想や感性を響かせ合う試みを実施。子どもたちは他地域の芸能に触れることで、自分たちが暮らす土地の個性や魅力を再認識していました。また、地域や世代の垣根を越えて互いの文化を尊重しながら共に楽しむ姿も見られました。WOWは、自らのルーツと向き合う経験を通してアイデンティティが育まれ、自分らしく生きる力へとつながる場づくりに今後も取り組んでいきます。