2025
10/15
バケルの学校「ハラㇻキ」前編

今年の「バケルの学校」は、東北ブロックの6校を巡回しています。これまで全国各地の小学校を訪問してきましたが、今回初めて北海道で実施が決定しました。北海道では古くからアイヌ文化が息づき、それらは東北地方の文化にも色濃く影響を与えています。私たちはこうした文化のつながりに着目し、実施校のある平取町のフィールドワークと、ユネスコ無形文化遺産に登録されているアイヌ古式舞踊のインタビューを実施。アイヌ文化をモチーフにした新コンテンツ「ハラㇻキ」が誕生しました。
フィールドワークから浮かび上がる自然・文化・人のつながり
「バケルの学校」の北海道実施校は、平取町立二風谷(びらとりちょうりつにぶたに)小学校です。私たちはまずフィールドワークとして、二風谷小学校のある平取町を訪問。四季折々の自然に囲まれ、百名山の幌尻岳(ぽろしりだけ)やすずらん群生地など、雄大な景色が広がっていました。文献や資料だけでは捉えきれない自然やスケールを肌で感じつつ、そこから得た感覚をBAKERUの世界観にどのように落とし込むか考えながらフィールドワークを行いました。
二風谷小学校と沙流川
アイヌ文化は地域ごとに異なる特性を持ち、それぞれの土地で大切に受け継がれてきました。伝統的な踊り「アイヌ古式舞踊」も地域ごとに衣裳や踊りの特徴が異なります。
アイヌ古式舞踊では、自然、動物、身の回りの道具にまでカムイ(神)が宿るとされ、踊りを通してカムイへ祈りや感謝を捧げてきました。舞の所作にはさまざまな意味が込められており、農業や狩猟、漁など、自然と関わる中で生まれた動作が踊りに取り入れられています。これらは、家庭やコタン(集落)においては家事や子守の合間に、娯楽や儀式など人が集まる場面においてはみんなで楽しむ余興として、現代でも歌い踊られています。歌や踊りを楽しむ気持ちはカムイ(神)にも喜んでもらえるという考えのもと、暮らしの中で形成された信仰とも密接に結びつきながら継承されてきました。
アイヌ古式舞踊
理解をより深めるため、北海道沙流郡平取町(さるぐんびらとりちょう)で文化継承活動を行う平取アイヌ文化保存会の方々にご協力いただき、インタビューを実施。平取アイヌ文化保存会では、衣・食・住・アイヌ語・古式舞踊など、さまざまな文化を伝承しています。取材の中で印象的だったのは、「なぜ踊るのか?」といった質問に対して返ってきた「みんなで踊るのが楽しいから踊る」といった言葉でした。これは、私たちWOWが作品を制作するときに大切にしている「心が躍動する」という考え方とも共鳴します。
インタビューの様子
「踊る楽しさ」を作品に──アイヌ古式舞踊とBAKERUの融合
フィールドワークやインタビューを踏まえ、いよいよ新しいコンテンツの制作を開始。これまでのBAKERUでは東北の来訪神や郷土芸能を通して、「なぜ人は神や自然に成り変わり、歌い踊るのか」といった問いに向き合ってきました。古来より人々は、神や自然の依代となる存在に畏敬や恩恵を見出し、そこに祈りや願いを込めてきました。そして歌い踊るという行為を通じて、仲間と喜びを共有し、心をつなげてきたのです。地域や言語が異なっても、人々が祈りやつながりを求める営みは共通しています。今回のフィールドワークとインタビューを通して、私たちはこうした普遍的な心のあり方を改めて実感しました。この気づきを踏まえ、平取アイヌ古式舞踊における「みんなで踊る楽しさを共有する」という心のつながりを中心にした作品づくりを目指すことになりました。
WOW仙台で制作スタート
新コンテンツの名前は「ハラㇻキ」です。平取町に伝わるアイヌ古式舞踊「ハラㇻキ」に登場するタンチョウとその踊りをモチーフにしています。タンチョウは、純白の羽、黒い首、赤い頭頂部を持つ美しい姿が特徴です。アイヌ古式舞踊「ハラㇻキ」には、タンチョウが湿原で遊ぶ踊りと大空を飛ぶ踊りがあり、どちらも仲間とともに楽しむ踊りとされています。その姿がBAKERUを楽しむ子どもたちの姿と重なったことから、「ハラㇻキ」をテーマにしたコンテンツ設計を進めました。
アイヌ古式舞踊「ハラㇻキ」
「ハラㇻキ」の世界観を形にするために、背景にはコタン(集落)、平取町から望む幌別岳(ぽろべつだけ)、戸蔦別岳(とったべつだけ)をイメージして描写。これらの山は平取町のランドマークであり、アイヌの人たちにとってはカムイ(神)が宿る神聖な山とされています。山の恵みや力を感じながら、人々の暮らしや祈りと深く結びついてきたこの場所は、アイヌの人たちだけでなく、平取町に住む人々にとって特別な存在とされています。
化けるキャラクターはタンチョウをモチーフにデザイン。タンチョウらしさを強調するために、アバターの頭上に装飾としてタンチョウの顔をあしらいました。配色やアイヌ文様は、平取アイヌ文化保存会で使用されているものを参考にしています。またアイヌ古式舞踊の「ハラㇻキ」は女性の舞踊でもあるため、女性らしいフォルムで可愛らしさを表現しつつ、体験中の動きがより自然に見えるようデザインしました。
歴代BAKERUキャラクターとの比較による初期キャラクター案
キャラクター・背景のバリエーション検証
新コンテンツ「ハラㇻキ」では、鑑賞者が顔にお面をつけることで、タンチョウのキャラクターに変身したアバターがスクリーンに出現します。平取アイヌ古式舞踊の所作をもとに、両手を胸の前から外に開くと、アバターがなき声をあげ、その声に呼ばれて仲間のタンチョウが次々とコタンに降り立ちます。クライマックスでは、集まったタンチョウの群れが一斉に羽ばたき、アバターとともに空の彼方へ旅立ちます。これは、「人間界に降りたカムイ(神)が役目を果たした後、カムイの世界へ帰る」というアイヌ文化の言い伝えを表現しています。こうして平取アイヌ古式舞踊の伝承や思想を背景にした「ハラㇻキ」が、BAKERUの新たな仲間に加わりました。
後編に続く